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 追ってくる  writer:ねこじゃらし さま



 逃げないと、逃げないと…。
 早く逃げないと奴が来る
 奴は多分もうそこまで迫ってきている、振り向いている暇などない。
 そんなことをしていたら追いつかれてしまう。

 走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る

 喉がからからに渇き全身から汗が滝のように流れる、頭がだんだんと真っ白になり視界がぼやける…
 一体いつまで走り続ければいいんだろう、走っても走っても後ろにいる奴の気配は消えない。
 …いったいどのくらいの間走り続けたのか、ふと奴の気配が消えた

「…って所でいつも目が覚めるんだよ」
「ふ〜ん」
 目の前で友人の安本がうどんをすすりながらいい加減に受け答えをする、やはりこいつに相談などしようとした俺が馬鹿だったのかもしれない、学食のうどんとはいえおごってやったことがいまさらながらに後悔される。
「んで?」
「あ、ああ。最初は何日かにいっぺん見るだけだったんだけど…最近じゃあ毎日の様に見る」
「ふ〜ん、確かに珍しいな」
「しかもなんだかどんどん見てる時間が長くなってるんだ」
「…んじゃそのまんま見続けたらどうだ、そのうちなんで追われてるのか分かるかもしんねーぞ」
「見続ける…ね」
 結局その後もたいした収穫が無いまま安本と別れ家路に着いた。
 大通りの交差点、買い物帰りと思しき主婦の横で信号待ちをしている時ふと違和感に襲われた。
 辺りを見回してみるとそこに広がっているのは飽きが来る様な平凡な日常、気のせいかと思いながらもう一度視線をめぐらせると視界の隅に「それ」はいた。
 喪服を着た女だ…静かな日常の一幕にぽつんと存在するその「点」は異様なまでに目に付いた。
 いつの間にか信号は変わっていたが俺はその女から目をそらすことができなかった。
 ……と、女が笑った。薄く唇を動かすだけの、ともすれば上品に見える笑い…だがなぜかそれを見た俺の頭の中で何かの警鐘が鳴り響く。
 途端に俺ははじけるように走り出した、なんだか分からないが…「あれ」は危険なものだ。

 必死に走る、走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る

 足には割りと自信のあるほうだ、高校時代はラグビー部だったし今でも休日には走る。
 だが、先ほどから全力で走っているはずなのに後ろに迫る気配はまったく消えることは無い…いや、むしろじわりじわりと少しずつ近づいてきている…俺は言い知れぬ恐怖に駆られ必死に走り続けた。

 ……どれほどの間走り続けたのか、喉がからからに渇き全身から汗が滝のように流れる、頭がだんだんと真っ白になり視界がぼやける。
 とうとう限界に達したのか足が意思に反して前に進まなくなる、いつの間にかあの気配は消えていた。
 助かったのだという安堵感からその場に座り込む、たぶんもう一歩も動けないだろう。
 そういえば、ここはどこだろう…何も考えずに走った上にもうすっかり夜になっている。

 あたりにはぽつぽつと明かりが見えるが……?
 とりあえず立ち上がろうとするが足がろくに動かない、結局また座り込んでしまった。
 動くのは無理なようなのでもう一度場所を確認しようとする、だがわざわざ見回す必要もなくすぐ目の前に答えはあった。
「線路…」
 俺が座り込んでいたのは線路の上だったどうりで座りにくいわけだ。
 このままだと危険なのでとりあえずどいておこうと思った瞬間背筋にぞくりと悪寒が走った。
 顔を上げると線路の先にあの女が立っていた、夜の闇の中でも彼女が身にまとった喪服はとても映えていた。
 逃げなければと思うが体は言う事を聞かず俺は女を見つめ続けた。
 女は笑っていた、さっき見たのと同じ笑い。
 そのとき急に視界が明るくなった、振り返ると目の前に電車が迫っていた。
「あっ……」
 避ける暇などあるはずもなくドンッという衝撃と共に俺の体が跳ね飛ばされる。

 回る回る、くるくると世界が回る。
 首だけになった俺はくるくる軽快に回りながら勢いよく飛んでいき、ぽすっとやわらかい何かにキャッチされた。
 俺の首を受け止めたのはあの女だった、相変わらず顔は見えないがなぜか綺麗だと思った。
 女はいとおしげに俺の頭をなで額に口付けると歩き出した。
 だんだんと消えてゆく意識の中で俺は「ああ、夢の続きはこうなっていたんだな…」と思っていた。


 
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