| 雪の降る日 writer:魅彌 さま |
2月。 寒い。暖炉を炊いても薪をくべても寒い。 今ほど家が広いことがこんなにもつらいと思ったことはない。 魔王城エンブラス城。 よそのところと比べればさほど大きくはない。 せめてもの彩りと花壇はあるもののこの季節ではロクなものが育たない。 その隣の農地には寒さに強い白菜が埋まっているはずだ。 「どうしたの? 外なんて眺めて」 いつも通りの無地の半袖と膝丈ほどのスカート姿のシルーネが顔を出した。 魔法結界に守られていると気温などは無意味と言っていたが見ているこっちの方が寒くなってくる。 「ん、いや。雪だな〜と思ってな」 降ってはいないが一面白銀の世界だ。白だけというのも悪くはないように感じる。 「ねえ、暇でしょ? あそぼ」 シルーネは覗き込む仕草で近寄ってきた。 これで世界を恐怖に陥れている魔王というのだから何とも言えない。 手を引かれながら外に連れ出されたもののやっぱり寒い。 息を吐けば白いのが目に見える。 「ほら、早くおいでよ」 シルーネは元気よく白銀の世界を走り回っている。 その姿はさながら幼い子供のようにも見える。勿論、本人にはこんな事は言えない。 時代が時代なら魔王などやらずに年相応の生き方も出来ただろうにとつい思ってしまう。 ぼーっとしてるとさっきまでいたシルーネの姿がない。 上を向いても雲がさしているだけで人の姿はない。 「………!!」 ばふっ 気付いたときには既に雪の玉が顔面にヒットしていた。 「シルーネ!」 叫んでみるもののさすがに魔王と言うべきか。気配が全くない。 飛んできた方向から察するに雪に埋もれながら隙をうかがっているか。 「ぼーっとしてるからだよ。えい、もう一個」 今度は左から飛んできたものを、何とか手でかわす。 大体の居場所が掴めてきた。 本来ならそこへ飛びかかっていってもいいのだが、何せ一面雪。しかも、しかもその場所は地雷や落とし穴がふんだんに用意された危険区域。対勇者用の罠がこれでもかというぐらいに存在している。 「え〜い、行ってやらぁ」 自分に言い聞かせるように気合いを入れると、雪玉を一つ用意して高度5メートルまで飛び上がった。 上空から見ても白銀の世界は白銀のまま。 おおよその見当がついている場所へ魔法で作り出したつららを投下してみる。 「きゃあ!」 ある一点に変化が出た。あと数センチずれていたらそこに突き刺さっていただろう。 「酷いよぉ。私、つららなんか投げなかったの…うにゅ」 こっちに向かって叫んでいるところに先ほどの雪玉を投下する。 「うぅぅぅ。酷いよぉ、うぐぅ」 シルーネがしゃがみ込んで泣き始めた。さすがにやりすぎたかもしれない。 「お、おい。悪かったよ、そんなに泣く…」 側に降りていき慰めようとしゃがみ込んだその瞬間、 ばふっ ジャキーン 押し倒されたのと同時に右耳の側で刃が飛び出してきた。 「…驚いたぁ」 「あのなぁ」 押し倒されたままの格好でシルーネを見つめた。 そこにはいつも通りのシルーネの顔があった。 「え、あ、その。な、何見つめてるのよ。もう」 頬を赤く染めるとすぐさま上から退いた。 こういうところは年頃の娘だなと感じる。 「すれすれだったね」 「一歩間違えれば死ぬところだったぞ」 ごめんねと舌を軽く出しながら謝ったシルーネの手をとって立ち上がった。 「雪合戦一つで死に直面するとは思わなんだけどな」 「だからごめんってば。ん、もう」 そういうシルーネの手を力強く握りしめた。 シルーネを感じるように。 |