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 竜の住む森


叫んで泣いて……そして走って


「ユキィィィィィィィル!」
「リキィィィィィィィル!」
 二人は同時にお互いの名を叫びながら走り出した。
 迫り来る竜の群れから逃れるために。
「お前のせいだぞっ、ユキルっ」
「僕は何もっ、してないじゃないかぁっ」
「俺だって何にもしてないぞっ」
「うわぁぁん! 僕らここで死んじゃうんだ! 竜に踏み潰されてっ」
 半べそになりながらも走り続ける、マイナス思考の双子の弟に非難の目を向ける兄。
「『僕ら』って言うな! お前ひとりで死ねっ!」
「うわぁぁん! 死にたくないよおぉぉっ!」
「黙って走れ!」
 二人は無我夢中で走り続けた。
 いい加減疲れ果ててきた矢先、人影が見えた。それは少女のものだった。
「なっ……おいっ、逃げろっ!」
 リキルはキョトンと首を傾げている少女に向かって叫んだ。しかし、何の反応を示さないまま、突っ立っている。
 まるで言葉が理解できていないようだった。
「うわぁぁぁん! あんなとこに女の子がいるよおぉぉ!」
 すでにパニック状態のユキルはただ叫んでいた。
 リキルはしかたなく、少女の所まで着くと手を掴んで、すぐさま走り出す。

「ったく、なんだってこんな目にっ」
「うわぁぁん! リキルが日頃の行い悪いからだよぉっ。その巻き添えくらって僕は死んじゃうんだあっ!」
「俺っのっせいっに、するなああぁぁぁっ! 日頃の行いが悪いのはっ、お前の方だろうがあっ。この間、からまれてた女に助け求められておきながら、お前っ、見事に振り払ってたろーが!」
「うわぁぁん! だって面倒臭かったんだもおぉぉぉぉ! 見てたんならリキルが助けてあげればいいじゃないかあああっ! 同罪じゃないかああああっ、僕は悪くないいいぃぃ」
「俺だって悪くなあああぁぁぁぁぁぁいぃっ!」
 叫ぶのに余計な体力を使ってしまい、それ以降、三人は無言で走り続けた。
  クゥゥゥゥォオオオオオオォォゥ
 竜の咆哮がする。
(まだついてきやがるのか。しつこいな……俺たちが何したってんだよ。……?)
 ふと思い出したかのように、振り返る。手を掴んでいるのだから当たり前なのだが、少女がいないような気がしてならなかった。少女は疲れている様子もなくただ、不思議そうな顔をしている。
リキルは何か引っ掛かるものを感じながらも走り続けた。

「…っち……はぁはぁ……マジぃ…」
 体力がなくなってきたリキルは、だんだん足が遅くなってくる。
「うわぁぁん! リキルが死んじゃうよぉぉぉっ!」
 ユキルは疲れもなんのそので、走りながら叫ぶ。
(勝手なこと言うなああっ! 俺は死なねえっ!)
 声に出して言い返す気力はないため、胸中で怒鳴り散らす。
「うわぁぁん! リキルゥゥゥゥぅ―――――――――っうがっ!」
 足がもつれたのかなんなのか、ユキルが派手に転倒した。
「……このっ……あほがっ……」
 リキルはよろよろと立ち止まって、駆け寄る。
「うわぁぁん!」
 ユキルは立ち上がろうともせずに、泣き叫んでいる。少女はユキルの側にしゃがみこみ、不思議そうな目でリキルを見上げている。
「は、やく、立て」
「うわぁぁん! 足が痛いよおぉぉっ、僕らもう死ぬんだああっ!」
 転んだ拍子に足を痛めたようだ。
「僕らって言うなああああああっ! いいから立てえぇぇぇぇいっ!」
 なけなしの力を振り絞って、怒鳴る。
「うわぁぁん! 立てないよおおおおおっ!」
「じゃあ、おいてくからなっ!」

  がしっ

「…………おい、この手は何だ? 俺の足にまとわりついてるこの手は」
 ユキルは泣くのをやめ、無言でリキルの足をしっかりと掴んでいる。やがて、泣き顔が晴れやかな笑顔に変わる。
「フフフ……リキル、僕たち、死ぬ時は一緒だよね……」
「はっはっは。お前、なかなか面白いこというなー。はっはっは。いや、ゆかいゆかい」
 言いながら、リキルはユキルの頭をゲシゲシと踏みつける。
 少女は、ただ、不思議そうな目で二人を見ていた。




一件落着? でもやっぱり叫んで泣いて、そして走る


  クゥゥゥゥォオオオオオオォォゥ
 竜の咆哮が再び轟く。
 しかしそんなこと気にもせず、その状況は続いていた。
「いやー、ゆかいゆかい。はっはっはっ……?」
 ふと、リキルはユキルの頭を踏みつけるのを止める。気づいたのだ、もう既に竜に追いつかれているはずだ、ということに。そして、少女と出会ってからたいして場所が変わっていないことに。
「リキル……? どうしたの?」
 何故だかどうして、ユキルは平然と起き上がって言った。
「あの……」
 と少女が始めて声を発する。
「どうして逃げるのですか?」
「どうしてって……竜が追ってきてるじゃないかっ!」
「リキルぅ、追ってきてないよぉっ!」
「へ?」
 確かに後ろを見てみれば、竜の群はなくなっていた。そしてあの、けたたましい竜の咆哮も聞こえなくなっている。が、代わりに、小さな竜の姿が見え隠れしていた。
  クゥォオオオ?
 高く、可愛らしい鳴き声。
「竜の……子供?」
「竜の子供……」
  クゥオオッ!
 子竜はリキルとユキル、そして少女の姿を確認すると、喜んだ声をあげて走ってきた。
「おいで、クリィ。いい子にしてた?」
 少女が呼ぶと、一層喜んで子竜――クリィは声をあげる。
「ねーリキルぅ、ここどこなのぉっ?!」
「俺にもわからないよっ!」
「じゃあ一体何が起きたの?!」
「わからなぁぁぁいっ、て、言ってるだろーっ!!」
 頭の回線がショートしてしまう寸前の――というか、既にショートしてしまっている気もするが……それは置いておいて、つまりそんな状態で二人は叫び問答を繰り返していた。
「きっとクリィが遊んでほしくてやったのね」
「?」
 少女の言葉にようやく二人は静まる。
「遊んで……?」
「この子ね、たまに自分の近くを通った人と遊びたくなるらしいの。
 それで遊んでほしくって、あいてに幻を見せるのよ」
 二人は顔を見合わせ、そして呟く。
「じゃあその竜の子は、幻竜の子?」
「そう。ほら、まだ小さいけど三つの角があるでしょ? 幻を見せる、幻竜の子の証拠よ」
 二人がいくら走ってもあまり遠くにいっていなかったのは、クリィが遊んでほしい故、遠くに行かないよう幻の竜たちに追わせていたからなのだろう。そして、少女が不思議がっていたのは、少女には二人に見える幻が見えていなかったからなのである。
「……なんだ、そーいうことだったのか……」
 呟き、二人は大きくため息をついたのだった。

「ユキィィィィィィィル?!」
「リキィィィィィィィル?!」
 二人は同時にお互いの名を叫びながら走っていた。
 またしても迫り来る竜の群から逃れるために。
「何でまた竜が追ってくるのぉっ?!」
「お前がまた何かしたんだろっ!」
「僕は何もしてないよっ!」
 後ろを見ると、確実に迫り来る獰猛な竜の群。
「なんか涎垂らしてるよ、あのりゅうぅぅっ!?」
「気のせいだぁーっ! さっさと走れぇっ!」
「うわぁぁん! 今度こそ僕らここで死んじゃうんだっ! 食べられちゃうんだぁっ!」
「だから『僕ら』って言うなぁーっ!」

  ――そして、今日もまた、二人は走りつづけるのだった。




○○○○○○○○○○

ソラ:このお話は紫陽花さんとの共同作品なんだってね。
しき:前半を紫陽花さんが、後半を私が書きました。
ソラ:リレー小説っぽい感じだね。
しき:2話限りのリレー小説と言っても平気でしょう。
ソラ:交換小説だ〜。
しき:おう。これは既定の用紙にきちんと収まるように限られた中で作成するっていう、普段しない形式で書いてみました。
ソラ:そうなんだ〜。
しき:そうなんです〜。たまにはこういったのも面白かったですね。


 
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