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 世の中そんなに甘くない!



 あれは、突然思い立ってのことだった。
 それは、突然起こったことだった。
 これは、突然現れたのだった。

「旅に出る!」とそう決めたのは三日前。
 世の中を見て回りたい。平凡な村から抜け出したい。そう思ってのことだった。
 それなのに……。

 目の前には一面の海が広がる。真後ろには凶悪なモンスターが迫っている。
 何故こうなるのだろう?
 ただ僕は、世の中を見て回ろうと思っただけなのに。
 こういう場合、強くて優しい人が現れて、僕のことを助けてくれると、そう思っていたのに。
 都合のいい考えでしかなかったのか?
 電車の旅だって、山奥のちんけな村から都会に出ようと思ってのことだったのに、途中の森で脱線事故。病院に行って住所聞かれ、家の奴が来ても困るから、そっと抜け出したまでは良かったが……。
 今度は道に迷い、森をさまよった挙句、数少ない凶悪モンスターに追われる羽目になった。
 ようやく森を抜けたと思ったら、目の前は海。
 気づけばはじめ一体だったモンスターは、仲間を呼んだのか三体になっている。
 僕にいったいこの状況をどう乗り越えろというのか。
 じりじりと近づくモンスター。
 戦うしかないのか……?
 この僕が、格闘技も剣術も、何も習ってない僕がどうやって? 逃げる途中で拾った木の棒一本でどう戦えというんだ!
 あぁ、どうしよう。
 思いながら、また一歩後ろへ下がる。
 もう波が僕の足にかかっている。
 目を離したら、その瞬間に襲いかかってくる。そういうモンスターだと聞いていたが、それを知らなければ今ごろ僕はあのモンスターの腹の中だっただろう。
 そうなっていないだけましなのかもしれないが、このまま永遠とにらめっこしているわけにもいかない。いつか、こちらの隙をついて襲いかかってくる。
 それまでに、何とかしなければ……
「なぁに? 何してんの?」
 とその声に、僕は一瞬モンスターから目を離してしまった!
 だが幸運にも、モンスターもその声の主に向き直っていたため助かった。
 僕と同い年くらいの、十四、五歳の女の子だ。
 ああ! これが天の助けなのか!
 僕はモンスターの注意がそれたことを機に、森の方へ駆けだした。
「ありがとう神様!」
 そう叫びたかったが、モンスターの注意を呼び戻すだけなのでそれをこらえた。
「え? ちょっと……
 きゃーっ! こいつら凶悪なモンスターじゃない! 何でこんなところにいるのよぉ!」
 などという声が聞こえてくるが気にしない。
 僕にはそれを気にしている暇などないのだ。
 必死で、それこそ死に物狂いで駆け回った。
 あの女の子なら心配ないだろう。武道着を着ていたから、何かしらの武術を習っているはずだ。
 しばらく行くと、川に出た。海が近いからだろう、広くて浅く、大きな川だ。
 僕はここで、一息つくことにした。
 モンスターたちも、ここまでは追ってこないだろう。
「あー、疲れた。
 でもやっぱ何とかなるもんだ!」
 言いながら持ってきたタオルを取り出すと、川辺で顔を洗う。顔を拭き、ふー、と息をついた時、一人の少女が現れた。
「あーんーたーねーっ!」
 すごい形相をしているが、どうやら先ほどの女の子のようだ。
「あぁ、さっきの人。どうもありがとうございました。僕一人でどうしようって、困っていたところだったんですよ」
「ありがとう……って! 人にあんなもの引き渡して逃げ出すなんて、最低よっ!」
 僕が丁寧にお礼を言っているというのに、この武道家少女は文句を言ってきた。
「仕方ないじゃないか。僕だって必死だったんだから。それに君は武道家だろ? モンスターなんかちょちょいのちょいで……」
「無茶言わないで! 武道家って言ったって、昨日入門したばかりなんだから! 師匠ともはぐれちゃったしね!」
 顔を真っ赤にして、頬を膨らませて彼女は言った。
「でもいい練習になっただろ? すごいじゃないか、あのモンスターを倒しちゃうんだから」
「……倒してないわよ」
 少し間を置いて、そう答えた。
 いやな予感を感じつつ、僕は彼女に問い返した。「倒してない……って」
「そのまんま。もうすぐここに来るの!」
 とんでもないことを言う。
 モンスターをわざわざ僕のところまで連れてきたというのだ。
 なんて奴……。最悪だ。
「おまえって、最低な奴だな」
「あんたに言われたくないわよ!
 それにあたしはあんたにおまえなんて言われる筋合いはないわよ!」
「じゃあなんだよ」
「エナ」
「僕はアレット。僕のほうもあんたって言われる筋合いないから、一応名乗っておくよ」
 ったく、こんなことなら旅に出るんじゃなかった。
 そうは思うが出てしまったものはしかたない。
 さっさと家に帰ろう。
「ところでエナ、この近くの駅は?」
「知らない。自分で探せば?」
 カチンときたがここは冷静に。
「そ、そう言わずに教えてくれよ」
「知らないわよ。あたしが知りたいぐらいなんだから」
 …………
「それはどういう……」
 言いかけたそのとき、すぐ近くで何かが近づく音がした。
「もう追いついてきた!」
「モンスター?!」
 うなずくエナ。
 僕は、今度はエナとともに駆け出した。ここがどこかわからないから、どっちに逃げればいいかもわからない。それでも逃げるしかなく、川沿いを、はるか遠くの山のほうへ向かって走っていった。

 帰るにもここがどこか分からない。
 このまま山のほうへ向かえば村へ近づくだろうが、村につくまでは相当な時間がかかるだろう。
 その上モンスターからは逃げつづけなくてはならない……。
 平和なあの村が恋しいなんて。
 帰ったら村の皆になんて言おう。
 ……それよりまず先に、僕は村に帰れるのだろうか?
 先の暗い未来をひしひしと感じながら、僕は走りつづけるのだった。




○○○○○○○○○○

ソラ:これは高校の卒業間近の時に書いたって聞いたよ?
しき:そうです。「みんな、これからもがんばっていこう! でも世の中甘くないぞ!」って感じで書きました。
ソラ:でもアレット君って……
しき:はい、無茶苦茶かっこ悪いし自分勝手な奴です。
ソラ:普通はかっこよかったり強かったりなのに。
しき:あえて普通からはずしたのですよー。
ソラ:ふーん。この話はどうやって書いたの?
しき:これは最初の3行を書いてあとはすらすらすら〜っと。
ソラ:あいかわらずの行き当たりばったりだね。
しき:う”。その通りですが……。あう。


 
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