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 世界違いの伝説たち



 ある世界に、ある伝説があった。

 高き山の頂に、一つの剣と一つの盾が眠っていた。
 その剣と盾を手にした者、いにしえより伝えられし邪悪なものを倒す者なり。
 剣、盾を手に扉をくぐりし時、そのものを砕く仲間となりし者へ、誘われる。
 宿命は常に伴われ、勇者は必ずこれを求めよ。

 また、違う世界にも伝説があった。

 封印の扉に眠る七色の光を持つ宝玉。
 それを手にし、念じれば、使いし者の願いは叶う。
 これを求めし者よ、正しき心でこれに触れよ……。






 あの時――。
 そう、あの時は、まるで月が微笑んでいるかのようだったわ。
 何故って? そりゃあ……そう見えたんだから仕方がないじゃない。ええい、つべこべ言うな! 私、佐伯ミナ十六歳女、ただいま彼氏募集中が言うのだから間違いない。それでいいわね!
 え? 名前のあとのはなんだって? 文句あるって言うのっ?!
 ……ふむ。どうやら聞き分けのいい人のようね、貴方は。
 えーと、何だったかしら? そう、あの時のことね。
 確か……、あれは夜の十時ぐらいのことだったと思うわ。なんだか急に海が見たくなってね……というか、海のほうが気になったという感じだったかな? ま、とにかく海に行きたかったわけよ。で、家のそばすぐ海だから、浜辺に散歩しに行ったわけ。
 で、行ったのはいいんだけど、浜辺でいちゃついてるカップルがいてさ、ま〜ラブラブって感じ? ……はぁ、あんたにわかる? この私の気持ち。もう、私に彼氏がいないのわかっててわざと見せびらかしてるんじゃないかって感じちゃったんだから! 私、足元いっぱいに広がる砂を、そのカップルに向けるつもりで蹴飛ばしたのよ。
 ……そしたら、足が何か硬い物にあたってね、それが、なんと……。
 って! ちょっと聞いてる?! そう、聞いてるならいいけど。
 えーと、そう、足にあたった物ね。なんだったと思う?
 え? ガラス瓶? そんなんじゃないわよ。ま、わからないのも無理はないわ。
 まだ銃が落ちている方が自然なこの時代に、剣が落ちてたんだもの!
 何の変哲もない……っていうか、私、剣なんて見たことないからよくわからないけど、見た感じ装飾はなかったわ。骨董品って感じもしなかったし、鞘にも入ってなかったし、とりあえずこのまま置いておくわけにはいかないなって思ったわけよ。持ち主に返したほうがいいし、それに何より面白そうだ……じゃなくて、危ないからさ。
 で、まあ、一度家に帰ろうって決めて、剣を持ったまま人目につかないように家に帰って……、玄関開けたら――。

「ここだったってわけ?」
 窓からは、休日の爽やかな朝の光が差し込んでいる。
 少年は部屋の角にある机の椅子に座り、その反対側にあるベッドに私は腰掛けている。
 ……まあ、片づいているほうだとは思うけど、面白みのない部屋ね。
「ま、そういうこと」
 私はここの部屋の持ち主、山辺大太君にそう答えてあげた。
 中学二年生だって言ってたわね、確か。それにしても幼さが目立つ顔立ちな気もするけど、ま、他人の顔をどうこう言うもんじゃないわね。
「……で、僕に何をしろと?」
 あらあら、何てこと聞いてくるのかしら。わからない人ね。
「もちろん、電車賃払ってもらうに決まってるじゃない」
「はいぃっ?!」
 素っ頓狂な声をあげてきた。
 何を驚く必要があるのか。当たり前なのに。
 ここは千葉県南房総の山辺君の家。私が住んでいるのは神奈川県小田原市。
 あの時家の玄関を開けた瞬間、何故かワープしてしまったようなのだ。つまり、私は散歩しに外に出たままなわけで、部屋着に薄いジャケットを羽織っただけ、お金なんて持っていようはずもない。
「家に帰るための交通費をちょうだい、って言ったの。わからなかった?」
「わからなかったも何も……。
 この部屋のドアは、どこでもドアじゃないんだ! あんたん家のドア開けて、僕の部屋のドアが開いたなんて信じられるわけないだろっ! 第一、話にある剣なんてどこにもないじゃないか!!」
 ……うーむ、まだ信じていない。
 確かに、ここに着いた時に一瞬で剣は消えちゃったし、仕方がないといえばそうだけど……。
 それにしちゃ怒りすぎ。
 やっぱここについたと気に彼が眠ってて、起こすのかわいそうだって勝手に床で寝てたのが悪かったのかなぁ。そういやここのお母ちゃんにえらく誤解されてたけど……、まあいいわ。
 私としては、あの剣を見つけたことで滅多にできない貴重な体験をすることができたのだし、それに山辺君だってその影なる共演者として長い間私の記憶に残るのだから……考え直してみればいいことばっかしじゃない。
「……と、いうわけだから。交通費ちょうだい」
「何が『と、いうわけだから』なんだっ?!」
 私の言葉に、山辺君はぶつぶつ文句を言いつづけたのだった……。

 ――で、結局「何で僕がこんな目に……」とか愚痴りながらも山辺君は交通費を貸してくれ(後で返してくれ、って現金書留の封筒わたされたけど)私は無事、家に帰ることができた。
 それから二週間ほどたったある日……。
「うわぁああああああああああっ!」
 どやかましい叫び声と共に私の部屋に入ってきたのは、一人の少年だった。
 叫んだままの口で、駆け込んできたそのままのポーズで彼は止まっている。
「あんた……誰?」
「あ、えっとぉ……、ギルエ村のクビィズって言います……」
 とりあえず問う私に、少年はそのままのかたちで答えた。
 その後クビィズから聞いたところ、以前の私と同じような現象らしい。ただ、彼の手にしていたのは剣ではなく盾。それはここに来たとたんに消えてしまったということだけど。
 まあ、まずは家に帰ることを考えるべきだろうと思い、彼の住まいを聞いたところ……、とんでもないことを話し出した。
 クビィズの住んでいたギルエ村とかいう所に大量の魔物が攻めてきて……、拾った盾で身を守りながら駆け込んだ扉が、ここに通じた……。だから家が無事に残っているという確証はない、とか言うのだ。
 どうなってるのよ! 剣の次は魔物!
 どう話を聞いてみても……というか聞けば聞くほど、クビィズの住んでいたのは異世界というもの。魔法だとか、妖精だとか、喋る木だとか何だとか……。
 私が頭を抱えていると、今度はクビィズが質問してきた。
 私は何者なのか、とか、ここは何国のどこか、とか。
 私は正直に「私は佐伯ミナ、女子高生。ここは日本国の神奈川県よ」と教えてあげたが、もちろんクビィズにわかるわけがなく、彼は首を傾げていた。
 私がどう説明してよいかと悩んでいると、それは何の予告もなく起った。
「――くっそぉおっ! 金返せあんのやろぉーっ!!」
 唐突に怒鳴り声が部屋に現れたのだ。……というより、怒鳴り声を上げている人物が現れた、といったほうが正しいわね。
 今度はドアをくぐってではなく、部屋の中に直接現れてきた。
「……あれ? ここは……?」
「私ん家よ。……確か、山辺君だったわよね」
 周りの状況が変わったことに気づいた山辺君の呟きに、私は自分でも驚くくらい冷静に答えてあげた。
 とりあえず無条件に話を聞いてみると、山辺君は浜で拾った七色の石を持ったまま、いつまでも帰ってこない私に貸した五千円のことを考えていたら、気がついたときにはここにいたという。……そういえば、返し忘れてたな〜なんて今さら思い出されたけど。

 山辺君は私から五千円を取って千葉へ帰り、クビィズはいてもたってもいられないらしく、私が剣を拾った現場へ手がかりを探しに行った。
 私は今回こういった経験をして、世の中って不思議だらけなんだって確信できたわ。理屈じゃ答えられないこともいっぱいあるんだってね。
「今後――変な奴が現れませんように……」
 私は部屋の窓から夜空を見上げ、小さく、願うようにそう呟いてみた。
 けれど私には、程よく満ちた月が、私を見下ろして嘲笑しているように見えたのだった。




○○○○○○○○○○

しき:もう勢いだけで書いたものです。
ソラ:伝説の剣と、伝説の盾と、伝説の宝玉のお話なんだね。
しき:そう。別々の世界のそれらが現代にきたらどうなるかなーってお話です。
ソラ:山辺君なんだか大変そうだったね。
しき:ははは……そうかも。
ソラ:このお話はどうやって書いたの?
しき:なんていうか勢いで書いたもので、じつは良く覚えていません。
ソラ:うー、忘れっぽいんだ。
しき:……あう。否定はしないけど。まあ個人的にはノリが好きです、この話。


 
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