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 まだ見ぬ私の鳥



 あちらこちらで、いろいろな色の、いろいろな大きさの鳥が飛び交っている。
 まだ卵から孵ったばかりの、飛べない鳥もいる。
 その中に年老いた鳥が一羽、静かに横たわっているのが目に入った。
 あの鳥は飛べなくなってどれくらい経ったのだろうか?
 もとは白かったであろう羽は、薄汚れて茶色とも灰色とも言えない色になっている。<
 あれは、私。
 他の鳥と違い、もう自由に空を飛び回ることが許されない、未来(さき)のない私。

 昔……、いや、つい先ごろまで、私は悪ぶっていた。
 タバコを吸って、酒を飲んで。遅刻や欠席は当たり前。万引きだって幾度となくやった。
 理由なんてなかった。
 初めのうちは、本当になかった。
 いつしか、「親や学校が嫌だから」という理由になっていた。
 言い訳をしている……逃げている。そう気づいた時にはもう遅かった。
 親も先生も、本心から私なんかのことを信じてくれる人はいなくなっていた。
 言葉だけ。
「あなたのこと、信じているから」
「お前なら大丈夫だ」
 意味のない言葉しかかけてくれない。
 本当の親友だっていない。
 親も学校も友人も、皆が皆、そういった存在であろうと演じているだけ。
 私も「私」を演じているだけ。だから私は、あの鳥と同じ。

「違うよ」
 いつの間にか隣に佇んでいた少女の声が聞こえてくる。
「あの鳥はあなたじゃない。
 あの鳥は自分の使命を果たし、次の世代に未来を託していった鳥」
 その声とほぼ同時に、音もなく倒れた鳥が消えた。
 これが使命を果たした鳥の末路……。
 私はただ、その鳥の消えた場を見つめていた。
 ――ふと、そこに新しい、一つの卵が置かれているのに気づく。
「あの卵はたった今生まれてきた人のもの。
 これから温められて、再び倒れるまで育てられていく卵」
 消えゆく鳥と、生まれてくる卵。
 私の鳥は、もう既に消えてしまったのだろうか?
「消えてなんていないよ」
 それなら、私の鳥は一体どこに?
「そんな遠くばかり見ていないで、もっと近くを見てみなよ。
 ほら、ここにいるじゃない。
 あなたの、大切な……」
 そこには、鳥はいなかった。
 代わりに卵があった。
 まだひび一つ入っていない、真っ白な卵が。

 これが、私の鳥……?
 何でまだ卵のままなの?
 同世代の子の鳥は、殻を破って歩き回ったり、空を飛ぶ準備を始めているのに。
「ほら、またそうやって遠くを見ちゃう。
 どうして近くを見てあげないの?
 一番近い、自分の卵を」
 そんなことは考えたことない。
 けれどこの卵の中身は、ずっと前から腐ってしまったのじゃないかと……そう考えることは出来た。
「そんなことはないよ。
 あなたが存在しつづける限り、この鳥は生きていて、殻から出る時をまっているんだから。
 成長の仕方はそれぞれ違うよ。
 早いのもいるし、遅いのもいる。
 あなたの鳥は他の子のより少し遅いだけ。
 そして、遅らせているのはあなた自身だよ」
 ……私が、遅らせている?
 でも私は同じ事をしていたはず。
 私と一緒にいた子たちはいつも同じようなことをしていたはずなのに、その子たちの鳥は……。
「あなたは自分の鳥を一度でも見ようとしたことがある?」
 それは……、ないかもしれない。
「卵に触れてごらん」
 言われるままに、私は私の卵に手を触れた。
 硬い殻……。その中からかすかに暖かさを感じる。
 しばらく触れたままでいると、小さな振動を感じ取ることも出来た。
 これは……。
「わかった? あなたの鳥はずっと前から外に出たがっているんだよ」
 私は、まだ外に出ていなかった。
 それなのに外の人は自分をこう見ている、と勝手に決めつけて、自分を見ることをしなかった。
「まずは、卵を孵してあげることだよ。
 殻は硬くなっちゃったけど、決して割れない殻じゃないから」
 殻を硬くしてしまったのは私だったんだ。
 私が遠くばかり見ていたから、自分を見なかったから。
 外に出ようとしている「私」を、私は封じてしまっていた。
 怖かった。自分を見るのが。
 外に出た「私」を、私が見つづけることが出来るのか。
「私は今まで、何千、何万の鳥が生まれ、羽ばたいていくのを見てきた。
 あなたの鳥がどこまで飛んでいくのかはわからない。
 けれど私はあなたの鳥も最後まで見届ける。だから」
 わかっているよ。
 もう大丈夫。私は私の鳥を見る。
 時には他の鳥も見るかもしれないけれど、自分の鳥を見ることを忘れないようにする。
 大きさも色も、全くわからない鳥。
 まだ見ぬ私の鳥が、大空を自由に飛びまわることを信じて、私は卵を孵そうと思う。
 もう、外に出る準備は出来ているはずだから。




○○○○○○○○○○

しき:この話はそれまでで一番しっかりと校正した作品だと思います。
ソラ:確か高校の時図書新聞に載せてもらったんだよね?
しき:そうなんです。そのため普段とはちょっと違った感じに仕上げてみました。
ソラ:ふーん。
しき:まあ当時の作品にさらに加筆修正はしてありますけどね。
ソラ:この少女って……?
しき:それは自分自身ってイメージで。
ソラ:じゃあ自分と自分の会話? むー。
しき:まあそんな感じだね。心の葛藤をすこしでも表現してみたかったんです〜。


 
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