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 K.K



 そう、それは雪が降ってきそうな程寒い日のこと。
 凍てつく空気が肌を刺して、街を行く人たちは皆、背を丸くして歩いているわ。
 だって本当に寒いのだから、仕方ない事ね。
 私も自然と背中が丸まってきてしまう。
「あ、あのー、伊乃華さん?」
 呼び声に後ろを振り返ると、そこにはあいつがいた。
 ……あいつって言い方良くないわね。私の家の二、三件隣に住んでいる片岡君。家は近いけどこの子まだ中学生だし、特に面識はなかったんだけど……。最近よく見かけるのよね。
「なぁに?」
 素っ気なく返事を返した……つもりだけどだめだ。どうしても嬉しさがこみ上げてくる。
「あ、いや、なんか嬉しそうに歩いていたから……。何か良いことあったんですか?」
「え……、わかる……? いやぁ……あはははは」
 傍目に見てもわかるほど浮かれてしまっていたらしい。
 だって、だって……! ねぇ。もうっ! うふふふふふっ。
「え……っと、……僕はもう行きますね」
 私が無意識ににやけていると、変な奴だとでも思ったのか、急ぎ足で片岡君は去っていった。
 ああ……だめだ。顔がにやけるのを止めることができないなんて……。
 すべては朝受け取った手紙のせいなのよっ。
 ううん、「せい」じゃない。「おかげ」が正しいわね。
 手紙にはこうあったわ。


   今江 伊乃華 様

  僕は、貴女が好きです。
  去年の十月から、貴女を想っていました。
  一月十一日午後四時、丘の公園で待っています。

                 K.K


 「十月から」という点と、イニシャルの「K.K」、この二つをあわせると……、この手紙の差出人は十月に転校してきた倉沢一樹先輩……そうに違いないっ。
 転校してきて一ヶ月でバスケ部のレギュラーを獲得するほどのスポーツ優良者にして、成績も学年のトップテンに入るほどの優秀さ。あの憧れの倉沢センパイ……。
 嬉しくってほんと、寒いのなんか何処かにいっちゃいそうだわ!
 今日は一月十一日。
 午後三時三十分。あと、三十分だ。
 ここから丘の公園までは十分もかからないわ。
 今から行ったら早いけど…………、行っちゃえ!
 私は、公園に足を向けた。



 今日、大好きなあの人にラブレターを届けてきました。
 こういうの書くのって初めてだからどう書いていいのかわからなくてしばらく時間かかったんだけど、結局一行目からずばっと「好きです」って書くことにしたんだ。
 で……、直接渡すのはやっぱりなんだか気が引けたから、届けたと言っても自宅の郵便受けになんだけどね。
 出したはいいけど落ちつかない……。
 家にいても気分が暗くなってしまいそうだったので、近くの商店街まで散歩に出かけることにした。
 しばらく意味もなくうろうろしていたんだけど……、ふと、あの人が目に入った。
 な、なんであの人がここに……。
 って、まあ家もそばだし、ここにいてもごく自然のことなんだけど……。
「るるん〜、ふふん〜♪」
 といった感じの鼻歌が聞こえてくる。
 あの人のものだった。
 今にもスキップしそうな軽い足取りで、僕の前を横切っていく。
「あ、あのー、伊乃華さん?」
 気がついたときには僕は声をかけていた。
「なぁに?」
 素っ気ない返事が返ってくる。
 気がついたら声をかけてしまっていたものだから、何で話しかけたかなんて自分でもわからない。僕は一瞬口ごもりながらも問いかけた。
「あ、いや、なんか嬉しそうに歩いていたから……。何か良いことあったんですか?」
「え……、わかる……? いやぁ……あはははは」
 伊乃華さんはちょっと頬を赤らめながら、嬉しそうに微笑んでいた。
 この、笑顔。僕はこの笑顔に惚れたんだ……。
 僕が初めて伊乃華さんの笑顔に出会えたのは去年の十月。中高合同体育祭でのことだった。あの笑顔が……、忘れられない。
 思わずじっとその顔を見てしまいそうになって、僕は慌てて目をそらした。
「え……っと、……僕はもう行きますね」
 次の言葉が浮ばなくて。僕は振り返らないように急ぎ足でこの場を後にした。



 階段を上った先にあるその公園には、倉沢先輩がいた。
 まだ四時には早い。
 私が待ちきれなくて早く来るのがわかっていたのかしら……。
 倉沢先輩が振り返る。
 そして、私と目が合った。
「あ……」
 言葉が出ない。
 ダメよ! ここはがんばらなきゃ!!
「あのっ、倉沢先輩…………てぇ! 見てないっ?!」
 私が勇気を振り絞って声をかけたというのに、倉沢先輩の視線は私なんて見ていなかった。
 倉沢先輩が見ている先……、私の左側数メートル先には、可愛いを代名詞にもつような女の子がいた。
 私とは大違いの黒いつややかなストレートが軽やかになびく彼女は、こともあろうか倉沢先輩をこう呼んだ。
「一樹!」
 よびっ、よびすて!?
 もしかして……、そんな、まさか……、彼女?!
 そうよね……、倉沢先輩ほどの人が彼女いないわけないもんね……。
 で、でもそうしたらあの手紙は……。
 あの手紙は誰からの?
 そう考えようとしたその時、差出人が私の名を呼んだ。



 僕が公園への階段を上り終えると、そこには伊乃華さんがいた。
 なんだかぼうっと突っ立っているように見えるけど、僕は気にせず声をかけることにした。
 今日ここに来た理由は伊乃華さんに会うためなのだから。
「伊乃華さん」
 彼女は、僕が声をかけるとびっくりしたように振り返った。
「わっ、あ、片岡……」
 そして何故かそのまま止まってしまった。
 じーっと、僕のことを見つめる瞳。
 僕は顔が熱くなるのを感じだしていた。
「あ、あの……」
「片岡……喜一郎君……だよね」
 目を離さずに、問いかけてくる。
「うん、そうだけど……」
 答えながら、僕は自分の顔が赤くなってるだろう、と予想していた。
 いまさらなんでこんな質問なんだろう。
 特別付き合いが多かったわけじゃないけど、間に一軒挟んだだけのご近所さんなのに……。名前なんて知ってるはずなのに。
「じ、じゃあ……」
 止まったままだった伊乃華さんが動いた。
 数歩、後退する。
「じゃあ、片岡君がこの手紙の差出人?!」
「えええっ?!」
 僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 てっきり気づいているものだと思っていたから。
 僕の声を肯定ととったらしく、伊乃華さんは怒りの何故か形相で詰め寄ってきた。
「あーいう手紙をよこすのは勝手だけどねっ、名前はちゃんと書いてよぉ!」
 怒鳴られてしまった……。
「で、でも『K.K』ってイニシャルは入れたし……」
「『K.K』なんてイニシャルの人がこの世にどれだけいると思ってるのよ!
 おかげで私一人で期待して失恋……」
 最後のほうがよく聞こえなかった。
「え……?」
「な、なんでもないわよ! 別に私は期待なんかしてなかったし、倉沢先輩が私のこと……ってそうじゃなくて! えーっと、んーっ、もう! とにかく私は失恋中なのっ!! 
だから彼氏でもなんでも募集中なのよ!!」
 …………。
 圧倒されてしまった。
 けど……、ちょっと涙ぐんだ伊乃華さんも可愛い……。
 しかも彼氏募集中って、遠まわしにOKしてくれてるってことかも。
 ……って、あれ。
「倉沢先輩って……、あそこにいる一樹にぃのこと?」
「そうよ、仲良く彼女と歩いてるあの人よ」
 すねたような口調も可愛い……。
 って、そうじゃない。いや、可愛いのはそうなんだけどそうじゃなくて「彼女」と呼ばれた子のこと。
「あれ、僕の姉ですよ?」
「……それがなんだっていうのよ」
 少し意外そうな顔をしてから、小さく言った。
「一樹にぃとは、ただの従兄弟なんです」
「それがどう…………って、従兄弟?!」
 がしっと僕の肩を掴んで「本当にっ?!」と詰め寄ってきた。
「ほ、本当です……っ」
「ってことはまだ望みはあるってことね……!
 片岡君! 倉沢先輩の従兄弟ってことは良く会ったり話したりするわよね? 私を紹介して!」
 その顔には「私は倉沢先輩が好きです」と書いてあった。
「で、でも……」
「お願いっ! 一生のお願い!!」
 必死で頼むその姿を見ていたら、僕はいつの間にかうなずいてしまっていた。
「ありがとう! 片岡君大好き〜!!」
 意味的には違うけど。大好きって言われた僕は、ほんの少し、幸せを感じずにはいられなかった。




○○○○○○○○○○

しき:このお話はスコールさんからのキリリクです。
ソラ:リクエストは「恋愛小説」なんだよね〜。
しき:そうなのです〜。初恋愛小説なれど……。
ソラ:なれど〜?
しき:…………。さて。今回の作品。実はネタ考えた時点では長編になっていました。
ソラ:なれどぉ〜?
しき:……。しかしキリリクは短編と決めているので、短編用に再編集。コレに時間がかかった。
ソラ:答えてくれない……。
しき:気にしない気にしないっ。
ソラ:うー。……そういえば今回のお話って一人称が2つなんだね。
しき:はい、そうです〜! 一度「一人称×2」っていうのやってみたかったんですよ〜。念願かなったり。
ソラ:念願だったんだ?
しき:さぁ?(笑) まあ、とにかく初めてがたくさんの作品ですな。


 
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